top of page

KAM(監査上の主要な検討事項)とは?監査報告書が変わった理由をわかりやすく解説

7 日前
読了時間: 7分

「監査報告書」と聞いて、ピンとくる人はどれくらいいるでしょうか。上場企業の決算書の末尾に必ず添付されているこの書類は、長らく「適正意見」「不適正意見」などの短い結論だけが書かれた、一般の人には読む機会の少ない文書でした。ところが2021年から、この監査報告書が大きく変わりました。その中心的な変化が、「KAM(監査上の主要な検討事項)」の導入です。

「監査って何をチェックしているの?」「公認会計士はどこを一番重要視して見ているの?」という疑問に、監査報告書が初めて直接答えてくれるようになったのです。この記事では、KAMとは何か、どのような背景で生まれたのか、実際にどんなことが記載されているのかを、わかりやすく解説します。

そもそも会計監査とは何か?

KAMを理解するために、まず会計監査の基本を確認しておきましょう。

企業は毎年、売上・利益・資産・借金などを記録した「財務諸表(決算書)」を作成します。しかし、この決算書は企業自身が作成するものです。もし企業が都合よく数字を作ったり、問題を隠したりしても、外部からすぐには気づけません。

そこで、企業とは独立した立場の「公認会計士・監査法人」が、企業の決算書が正しく作られているかどうかを独立した第三者として検証します。これが「会計監査」です。株主や投資家は、この監査を通じて企業の決算書を信頼できるものとして受け取ることができます。

監査が終わると、監査人は「監査報告書」を作成します。従来の監査報告書には、「財務諸表は適正に表示している」「適正でない」などの「意見」だけが書かれていました。しかしこれでは、「どこをどのように調べたのか」「何を特に重視したのか」が外部の人にはまったくわかりません。

KAMとは何か?

KAMは「Key Audit Matters」の略称で、日本語では「監査上の主要な検討事項」と訳されます。

簡単に言えば、「今年の監査で、監査人が特に重要だと判断して力を入れてチェックした事項」のことです。監査人はその事項について、「なぜ重要だと判断したのか」「どのような方法で調べたのか」を監査報告書に記載することが求められます。

たとえて言うなら、学校の先生がテストを採点するとき、「今回は特にこの問題の採点を慎重に行い、このような基準で判断しました」と報告書に書いてくれるようなものです。採点結果(合格・不合格)だけでなく、採点の過程が見えるようになる、ということです。

なぜKAMが生まれたのか:監査報告書の「ブラックボックス問題」

従来の監査報告書には、大きな問題がありました。それは、監査の「中身」が外部からまったく見えないことです。

「適正意見が出ているのに、後で粉飾決算が発覚した」というケースが世界的に問題となりました。株主や投資家からすれば、「監査報告書には問題ないと書いてあったのに、なぜ不正が起きたのか」「監査人は何をチェックしていたのか」という疑問が生まれます。

この「監査のブラックボックス問題」を解消するため、国際監査・保証基準審議会(IAASB)は国際的なKAM制度を導入しました。日本でも、金融庁が2018年に監査基準を改訂し、2021年3月期から金融商品取引法の監査対象となる上場企業等にKAMの記載が義務化されました。

監査報告書とKAMの記載イメージ:公認会計士が重要事項を検討している様子

KAMには何が書かれているのか

KAMは通常、次の3つの要素で構成されています。

  • KAMの内容:どの科目・取引・開示が対象かを示す

  • KAMと判断した理由:なぜ特に重要だったのか(金額の大きさ、経営者の判断の不確実性、取引の複雑さなど)

  • 監査上の対応:どのような手続きで検証したのか(専門家の利用、データ分析、見積りの再計算など)

KAMは「企業の問題点」を指摘するものではありません。KAMが記載されていても、それは「この点について問題があった」という意味ではなく、「監査上、特に慎重に対応が必要だった」という意味です。監査の最終的な意見(適正/不適正)とは別の情報です。

実際にどんなテーマがKAMになるのか:具体例で理解する

KAMとして選ばれやすい事項には、企業の業種や状況によって違いがありますが、日本企業でよく見られる代表的なテーマを紹介します。

① のれんの評価(M&A関連)

企業が他の会社を買収するとき、純資産(資産から負債を引いた金額)を上回る金額を支払うことがあります。その差額が「のれん」として貸借対照表に計上されます。のれんは、ブランド力や顧客基盤など、目に見えない価値を表すものです。

のれんが本当に価値があるかどうかは、将来の利益予測や成長率などの「見積り」に大きく依存します。見積りが楽観的すぎると、将来「減損損失」(のれんの価値を落とす処理)が発生し、企業の業績に大きな影響を与えます。この不確実性が高いため、のれんの評価はKAMとして選ばれることが非常に多いのです。

② 収益認識(売上の計上タイミング)

「売上をいつ計上するか」は、一見シンプルに見えますが、実際には複雑なケースが多くあります。たとえば、長期の建設工事では完成前から少しずつ売上を認識します。また、ソフトウェアのサブスクリプション契約では、サービス提供期間にわたって売上を分割計上します。

決算期末直前に大量の売上を計上していないか、契約条件が正しく反映されているかなどは、不正が起きやすい領域でもあります。監査人はこの点を特に厳しくチェックするため、KAMに選ばれることが多くなっています。

③ 固定資産の減損(工場・店舗・設備の価値評価)

工場や店舗、製造設備などの固定資産は、事業環境が変化すると収益を生み出す力が落ちることがあります。帳簿上の価値より、実際に生み出す将来の利益の方が低くなった場合、その差額を「減損損失」として計上しなければなりません。

この判断にも将来予測が伴うため、経営者の見積りが重要な役割を持ちます。監査人は経営者の見積りが合理的かどうかを独立した立場で検証しなければならず、KAMとして記載されることが多い項目です。

KAMはどうやって選ばれるのか

KAMの選定は、監査報告書を作るときに突然行うわけではありません。監査人は監査の開始時から「どの領域に重大なリスクがあるか」を評価し、監査役会(または監査委員会)と継続的にコミュニケーションを取りながら監査を進めます。

KAMとして記載されるのは、「監査役等とコミュニケーションを行った事項のうち、当年度の財務諸表監査において特に重要と判断した事項」です。最終的に何をKAMとするかは、企業でも監査役でもなく、監査人(公認会計士・監査法人)が職業的専門家として判断します。

KAM導入で何が変わったのか:監査の透明性と情報価値

KAM導入の最大の意義は、「監査の透明性が高まった」ことです。従来は「結論」しか見えなかった監査報告書に、「監査のプロセス」が加わることで、株主・投資家・アナリストは企業の財務上のリスクをより深く理解できるようになりました。

一方で、課題も指摘されています。KAMの記載が「型通り」になってしまい、企業固有のリスクが十分に伝わっていないケースや、読んでも専門用語が多く一般の人には難しいという声もあります。KAMの情報価値をどう高めるかは、現在も議論が続いている重要なテーマです。

データサイエンスと監査の関係:KAMへの影響

近年、監査の現場ではデータ分析ツールやAIが積極的に活用されるようになっています。たとえば、監査人が企業の取引データを大量に分析して「異常なパターン」を検出したり、財務モデルの精度を統計的に検証したりする手法が広がっています。

こうしたデータ分析の活用は、KAMの記載にも反映されつつあります。「監査上の対応」の部分に、「全取引データについてデータ分析手法を用いて検証した」と記載される例も増えています。監査のデジタル化は、KAMの内容をより具体的で説得力のあるものへと変えていく可能性を持っています。

まとめ:KAMのポイントを整理する

この記事で紹介したKAMのポイントをまとめます。

  • KAM(監査上の主要な検討事項)とは、監査人が「今年の監査で特に重要だった事項」を監査報告書に記載する制度

  • KAMには「なぜ重要か」「どのように検証したか」が記載され、監査の透明性が高まる

  • 日本では2021年3月期から上場企業等にKAM記載が義務化された

  • 代表的なKAMには「のれんの評価」「収益認識」「固定資産の減損」などがある

  • KAMは企業の「問題点」を示すものではなく、監査人が特に慎重に対応した箇所を示すもの

  • 近年はデータ分析・AIの活用により、KAMに記載される監査手続も高度化している

監査報告書はかつて、専門家以外にはほとんど読まれない文書でした。しかしKAMの導入によって、企業がどのようなリスクを抱えているか、そのリスクに監査人がどう向き合っているかが、外部からも見えるようになりつつあります。上場企業の監査報告書は公開されているので、ぜひ実際の記載を読んでみてください。

─────────────────────────────

平屋ゼミナールでは、会計学とデータサイエンスを中心として、企業や社会をデータから考える研究に取り組んでいます。会計監査におけるデータ分析の活用や、財務情報の信頼性に関する研究も、ゼミのテーマの一つです。

 
 
 

コメント


  • googlePlaces
  • twitter
  • instagram
  • facebook

©2026 by 明治大学経営学部 平屋ゼミナール

bottom of page